フィンランド駐在体験記 第一部:ソフトウェアエンジニア編

こんにちは。株式会社モルフォの平井駿です。現在はフィンランドにあるグループ企業であるTop Data Science社に駐在員として赴任しております。本テックブログにおいては以前、COVID-19 Project 第1回として、「顔を触ってはいけない!」アプリを開発した記事を執筆しました。

今回は、ソフトウェアエンジニアとしてモルフォに入社した私が初めての海外駐在にてどのような危機に直面し、どのように乗り越えたかという体験記です。この記事は二部構成で、第一部がエンジニアとしての体験記。第二部が経営者としての体験記となります。こちらはその第一部です。

オフィスでエンジニアと議論する様子

Top Data Scienceは、北欧フィンランドのヘルシンキ(現在は隣のエスポー市に移動)にあるIT企業です。AI技術の研究開発に特化した企業として2016年に創業し、2018年にモルフォグループの一員となりました。これによりモルフォは欧州におけるビジネス拡大を目指しました。

買収後、しばらくは駐在員を置かずに活動していましたが、なかなか思うような成果が出ません。この状況を打開すべく、駐在員を派遣することになりました。国際的に活躍したいと考えていた私は赴任を希望し、2020年11月に単身ヘルシンキへと渡りました。2021年の春には日本から家族も合流し、本格的な駐在員生活がスタートしました。

フィンランドに来た初日、アパートで撮影

フィンランドに来てまず目指したことは、社員の信頼を得ることです。親会社から管理に来たと思われてしまうと、両者の間に大きな壁ができてしまいます。そこでしばらくは開発現場に入り込み、各メンバーの活動状況を把握することに注力しました。 開発者と一緒にソースコードを書き、提案書を準備し、顧客訪問などを繰り返す中で、徐々に仲間と感じてもらい始めました。この活動の中で、データの前処理、学習したモデルの評価、結果の可視化など、基本的なAI開発の進め方を把握しました。幸いにもソフトウェアという共通言語のおかげで、状況把握自体は比較的スムーズにできたと感じます。この活動を通して浮かび上がった課題が、コミュニケーションです。

ここで当時の開発状況を振り返ります。モルフォグループに入る以前、Top Data Scienceはフィンランドの医療機関との研究開発や、欧州企業に対するAIソフトウェア提供が主な活動でした。買収後は、モルフォ社内の研究開発や、日本の顧客に向けた技術提供が加わりました。価値のある技術を提供するには、ユーザーの課題および期待を正確に理解することが不可欠です。そのためには現場や市場動向の理解などが必要ですが、日本から地理的にも、言語的にも離れたフィンランドにいるエンジニアは、十分な情報を得ることができていなかったのです。

家族帯同時の機内で撮影。山の表面が平らなことが印象的でした。現在(2024年12月)はロシアを迂回しての飛行のため日本フィンランドまで13時間ほどかかります。

そこで私は技術者に開発要件を伝える際に、できるだけ多くの背景情報を合わせて伝えるようにしました。顧客企業の情報、技術が必要とされている理由、また顧客担当者の情報にいたるまで、幅広く伝えるように工夫しました。これはプロジェクト開始時点だけではなく、プロジェクト遂行中、こまめに情報をアップデートするように心がけました。

もう一つ大事なことがあります。それが「言語コミュニケーションに頼りすぎない」という点です。Top Data Scienceの共通言語は英語です。ただし、英語が母国語の話者は一人もいません。文化的背景が異なる人が会話をした場合、単純な単語が誤って異なる意味に解釈されることがあります。いかに丁寧に伝えても誤解が生まれることは十分にあり得ます。その際に、ホワイトボードに簡単な図を書いたり、身近にあるものを使用して説明をすることで認識のズレに気づくことができます。普段の会話はチャットを使用することが多いですが、デジタルツールに頼りすぎずにアナログなコミュニケーションを活用することで誤解を減らす努力をしています。

オフィス内で談笑する様子

実はこの課題を解決するためにオフィス移転をしました。もともとのオフィスはヘルシンキの北の方にありましたが、多くの社員はヘルシンキの西にあるエスポー市に住んでいました。人によっては会社に来るのに一時間ほどかかることもあり、在宅勤務の社員が多く存在しました(東京で1時間は当たり前ですが、ヘルシンキでは長い方です)。在宅勤務が増えるとどうしてもミスコミュニケーションが増えます。また、突発的に発生する会話が減り、悩んだまましばらく問題が解決しないという課題がありました。 そこでオフィス移転プロジェクトを立ち上げ、みんなが来たくなるオフィスの選定やレイアウトの検討をしました。2024年8月に移転を完了し、現在は活発な議論がオフィス内で行われています。

引っ越しはすべて社員で実行。写真は荷物の運び出しが完了した時の様子で、皆満足げな表情をしています。

赴任前、思うような成果が出ていなかったということを冒頭で述べましたが、このような活動を続けることで、徐々に成果が目に見えてくるようになりました。わかりやすい例としては、プロジェクトの継続率が上がったことです。これまでは短期的なPoC (Proof of Concept)で終わり、実用化されないプロジェクトが多かったのですが、実用化率が向上しました。

2021年6月 社員とモルック。短い夏をできるだけ楽しみ、それ以外の季節は仕事に打ち込むスタイル。

ここまでの話をまとめると、以下のポイントを押さえることで成果が出るようになりました。

  1. 顧客の情報を丁寧に技術者に伝えること
  2. 非母国語での会話においては言語に頼りすぎないこと
  3. オフィス環境を工夫することで出社しやすい状況を作り、アナログなコミュニケーションを活発にさせること

第二部では、そんな私がある日会社のCEOに任命され、様々な危機に立ち向かう日々の話を書きます。