こんにちは。モルフォCTO室シニアリサーチャーの芳賀です。
今回は、モルフォ独自の制度である「Will型開発」を活用し開催した「Will型アイデアハッカソン」について、その活動内容や成果をご報告したいと思います。
Will型開発とは?
株式会社モルフォでは、社員一人ひとりの自律性を尊重し、新しいアイデアや技術の探求を促進するための制度として、「Will型開発」を推進しています。 これは、技術者をはじめとする社員が自身の「やりたい(Will)」を起点として、自律的に研究開発や業務改善に取り組むことを後押しする仕組みです。
従来の、マネジメント層から技術者へ方向性を提示する「Push型」の研究開発に加え、この 「Will」に基づく「Pull型」の研究開発を共存させる ことを目指しており、近年では技術者に限らず全社員の「Will」を尊重する活動へと発展させています。
例えるならば、3M社やGoogle社で知られる「20%ルール」のように、勤務時間の一部を使って自身の興味や問題意識に基づいたテーマに取り組むことを推奨しています。 活動にあたっては、ひと月の所定労働時間内であれば20時間以内、所定労働時間外であれば時間制限なしというルールに基づき実施されます。
日々の業務と並行して時間を確保する必要はありますが、それでもなお、社員からは「新しい技術に触れてみたい」「ひらめいたアイデアを形にしたい」「過去に手掛けた業務をさらに改善したい」といった前向きな声が多く聞かれ、Will型開発がその意欲を後押ししています。
私はWill型の運営をしており、主に以下の活動を定期的に開催しています。
- 毎月のWill型発表会の開催
- 社内で発表者を募集し簡易的な報告会を実施
- 内容は「成果報告」「営業からのニーズの紹介」「相談」などなど
- イベントの開催
- 社内・社外を巻き込んだハッカソン
- インターンや新人OJT活動との連携
- 運営業務、アンケートの実施、活動の推奨
Will型開発では、モルフォの事業に関連する内容であれば、現在の業務と直接関係ないテーマにも取り組むことが可能です。 活動は個人でもチームでも行うことができ、一例として今まで以下のようなテーマがありました。
- 居室内の温湿度モニタリングダッシュボードの開発
- SoftNeuroルーチンの高速化
- 画像復元応用に向けた拡散橋モデルの研究
- SOFTGYROの新たなアルゴリズム改善
- 似顔絵生成
- 技術スライドの作成を促進するTypstテンプレート提供
- RVCによるボイチェン
- ローカルLLMを使ったSlack bot
- etc...
なぜアイデアハッカソンを開催したか?
Will型開発は、社員の自律的な探求を促す制度として好評ですが、これまでの活動から、素晴らしい技術的なアイデアが生まれても、それがすぐに実際の製品や事業に結びつく例は必ずしも多くない、という課題も見えてきました。
この要因の一つとして、エンジニア中心の活動だったため、お客様のニーズを深く理解している営業メンバーとの連携が限定的だったのではないか?と考えました。
そこで、Will型開発をより実りあるものにするため、運営メンバーに営業も含めて議論を重ねました。 そして、「エンジニアの持つユニークなアイデア」と「市場やお客様のニーズ」を効果的に結びつけ、アイデアを「プロダクトアウト」へと繋げていくこと を特に重要視する、という方針が固まりました。
この方針のもと、エンジニアと営業が密接に関わるための一つの具体的な試みとして開催されたのが、今回の「Will型アイデアハッカソン」です。
事前の交流会では、社内に多くの潜在的なアイデアがある一方で、「個人ではなかなか形にするのが難しい」「お客様の優先度が高くないテーマは後回しになりがち」といった現場のリアルな課題意識が共有されました。
今回のハッカソンは、こうした眠っているアイデアに光を当て、技術シーズと顧客ニーズを結びつけ、実現可能なビジネス提案へと具現化することを目的としています。
イベント全体の流れ
今回の「Will型アイデアハッカソン」は、社員一人ひとりのアイデアをモルフォの新たなプロダクトや事業へと繋げることを目指し、約3ヶ月間にわたる以下の段階を経て進められました。
- アイデア募集
- テーマを「モルフォの新たなプロダクト」とし、全社員から広くアイデアを募集
- スライド1枚のシンプルなテンプレートにアイデアを記入して提出
- アイデア発表LT会
- アイデアを提出した社員がライトニングトーク形式で発表
- 参加者の投票により、ハッカソンフェーズに進むアイデアとチームの決定
- アイデアハッカソンフェーズ
- 営業メンバーのサポートの元、LT会にて採択されたアイデアをブラッシュアップ
- 実現可能なビジネス提案への発展
- 実際の案件や製品につながる成功モデルの創出
- プリセールス向けの提案資料作成
- 説得力をあげるための道具の作成(デモ動画や市場分析など)も推奨
- 営業メンバーのサポートの元、LT会にて採択されたアイデアをブラッシュアップ
- アイデアハッカソン最終発表会
- ハッカソンフェーズでブラッシュアップした提案資料を用いて成果を発表
- 取締役や技術部門長などを招き「独自性」「収益性」「実現可能性」の観点から審査
このように今回のハッカソンは、アイデアの発掘からチームでの具体化、ビジネス提案、そして最終的な成果発表までの一連の流れを実践的に経験できるイベントとなりました。
また、開催にあたっては、参加しやすい形式を意識しました。 以前モルフォで開催した数ヶ月にわたるEVSハッカソン*1と比較して、今回は約1ヶ月間という集中的な期間で進行することで、社員の負担を抑え、よりカジュアルに参加できるようなスケジュールにしています。これが、多くのアイデアが集まり、ハッカソンも活発に進んだ要因の一つと考えています。
各チームの成果発表
今回の「Will型アイデアハッカソン」では、アイデア募集フェーズで集まった多様なアイデアの中から、LT発表会での検討を経て、いくつかのアイデアがハッカソンフェーズへと進みました。LT会では合計12件ものアイデアが集まりましたが、ここでは、最終発表会で提案されたチームの発表内容の一部をご紹介します。
チーム①:「スキャン画像をきれいにする」
取り組んだ課題: 書類や古いアニメのセル画などをスキャンした際に生じる様々な画像の劣化や課題に取り組みました。 具体的には、原稿の外側の写り込みやノド付近の丸まりによる歪み、微妙な傾き、グレーがかった背景や黒背景の白飛び、裏写り、蛍光ペンによる書き込み、文字のにじみやぼやけなどです。 また、昔のアニメのBlu-ray版などに見られるノイズも課題として挙げていました。 一般的なコピー機の設定では十分な画質が得られないという課題意識もありました。
提案したソリューション: これらの課題を解決するため、モルフォが持つ画像処理技術を活用した自動補正機能を提案しました。 書類だけでなく、アニメ画のような特殊な画像への応用も検討しました。文字をくっきりさせたり、裏写りを軽減・除去したり、背景を透明化したり といった処理が可能です。
発表された成果物の概要: プリセールス向け提案資料を作成し、早速アニメ制作会社へ提案もしています。 様々な画像処理による補正デモ画像や、さらにアニメ制作会社向けには線抽出、透明化などの簡易実験結果を紹介しました。 発表会では著作権に関する考慮事項についても言及がありました。
チーム②:「言語命令による自由自在なレタッチ」
取り組んだ課題: 写真のレタッチには専門知識が必要であり、ユーザーの意図通りのレタッチを実現するのが難しいという課題に注目しました。 既存のプログラミングツール(Pillow/OpenCVなど)はプログラミング知識が必要で、単体ではユーザーが望む自由自在なレタッチが実現しにくい状況でした。
提案したソリューション: 言語での指示によって自由自在なレタッチを実現する「Morpho Language Retouch」というソリューションを提案しました。 モルフォが保有する画像解析技術や処理モジュール と、VLM (Vision-Language Model) などの最新AI技術を組み合わせることで、初心者でも言語ベースの命令でパラメータ調整可能なレタッチが可能になることを目指しました。 ユーザーが微調整できるようなインタラクティブなUIも提案しています。
発表された成果物の概要: プリセールス向け提案資料を作成し、ビジネスモデル やターゲット顧客(スマートフォンメーカー、画像編集ソフトユーザーなど)、具体的な売上目標(Androidハイエンドスマホへの採用、Adobeプラグインとしての採用など) を示しました。 既存技術との比較優位性についても分析・提示しました。
チーム③:「画面録画による作業ログ探索」
取り組んだ課題: エンジニアなどのPC作業において、作業内容の記録や後からの確認・探索に課題があることに着目しました。 具体的には、「過去の作業忘れのために生じた余分な作業時間」を削減し、エンジニアの作業原価を低減することを目指しました。 これは、年間数百万円規模のコスト削減に繋がる可能性を秘めていると試算しています。
提案したソリューション: PC画面の操作を録画し、そのログを探索可能にするソリューション「Morpho Work Logger」を提案しました。 重要な技術要素として、画面録画画像に対してOCR(画像内文字列認識)技術を活用しながら探索に活用する点が挙げられます。 保存容量を抑えるために、OCR後は画像の解像度を落として保存するといった工夫も考慮されています。
発表された成果物の概要: プリセールス向け提案資料を作成し発表しました。 デモ用ツールを試作し、実際に「Morpho Work Logger」を使ってログ探索するデモンストレーションを行いました。
振り返り
アイデアハッカソンを終えて、運営メンバーでKPT(Keep, Problem, Try)法による振り返りを実施しました。
- Keep
- 全社を巻き込み多数のアイデア創出
- 交流促進
- 新分野検討の機会となった
- ちょうどよい規模感・短期間での成果発表
- プリセールス向け資料が成果物のため営業とエンジニア双方が動けた
- Problem
- アイデアの継続的なサポートの必要性
- 「出口戦略」の設計
- 運営の効率化
- 若手の参加が少ない印象だった
- Try
- アイデア出しの段階をより長くとってみる
- 若い年次が活躍できる形式
- 技術メインのコンペなど
- 顧客ニーズと紐づけた形式
- 逆にイノベーション重視の技術ドリブンな形式
運営メンバーだけでなく参加した社員からもかなり好評で大きな手応えを感じています。
まとめ
今回の「Will型アイデアハッカソン」は、Will型運営の新しい試みとして全社を巻き込み実施されました。 多数のアイデアが創出され、普段はあまり関わる機会が少ない社員同士の交流が生まれたことが運営側にとっても良い経験となりました。 短期間での発表やプリセールス資料指定も効果的でした。
今後は、Will型運営として会社を巻き込むイベントを定期的に開催していきたいと思います。 部門を越えた交流から生まれるアイデアを「顧客への提案」や事業に繋げる仕組みを強化していく方針です。 今回の経験を活かし、社員のWillから生まれる新しい価値を形にする活動を続けていきます。
*1:※EVS(Event-based Vision Sensor)の実用化を目的とした2024年にモルフォで開催した社内ハッカソン。
プレスリリースはこちら。 www.morphoinc.com 個別のチームの技術説明はこちら。 techblog.morphoinc.com