こんにちは、リサーチャーの長山です。このたび、同じくリサーチャーのMorpho Korea 所属の李とともに著者として名を連ねた論文が IEEE Transactions on Computational Imaging(TCI)に掲載されました。本記事では、そのプロジェクトの背景と取り組みをご紹介します。前半はプロジェクトの経緯を、後半は技術的な手法の概要を説明します。専門的な内容に入る前に読み終えていただいても、記事としての流れは完結するよう構成しています。
1. スマホで撮った写真の色は、なぜ「現実と違う」のか
スマートフォンのカメラが扱う色の範囲は、そのほとんどが sRGB という規格に最適化されています。sRGB は1990年代に標準化されたもので、当時のCRTモニターや Web での利用を前提に設計されました。問題は、人間の目が知覚できる色の範囲がこれよりもずっと広いことです。夕焼けや花の鮮やかさが「撮ったら何となくくすんでしまった」と感じるとき、その原因の一端はここにあります。
では、センサーの性能を上げ、より広い色域(たとえば映像業界が次世代標準として目指す BT.2020)に対応すれば解決するのかというと、話はそう単純ではありません。センサーが取得したデータは ISP(Image Signal Processor)で処理され、ディスプレイの色変換テーブルを経て初めて画面に映ります。この連鎖のどこかに不整合があれば、色の再現性はそこで損なわれます。さらに広色域化を進めると、ノイズやダイナミックレンジとのトレードオフが生じます。「見た通りの色を写す」は、構造的に難しい問題なのです。
W. -S. Kim et al., "Wide Color Gamut Imaging System Using a Multispectral Image Sensor for a Mobile Device," in IEEE Transactions on Computational Imaging, vol. 12, pp. 505-518, 2026, doi: 10.1109/TCI.2026.3663972.
モルフォには、社員が自身の「やりたい(Will)」を起点として自律的に研究開発や業務改善に取り組むことを後押しする、「Will型開発」という独自の仕組みがあります。その一環として行われた「Will型アイデアハッカソン」にて、「画面録画による作業ログ探索」というテーマで試作された「Morpho Work Logger」というデモツールがあり、本テーマはそこから着想を得ました。